感無量!!

昨日遂に長年の夢が叶いました!
信時潔作曲の交聲曲《海道東征》が僕の故郷熊本の熊本県立劇場コンサートホールで演奏されたんです!

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この曲は2003年、僕がまだ大学院生の時にオーケストラ・ニッポニカの創立記念演奏会で歌わせてもらった曲でした。
信時は日本の西洋音楽受容史において、山田耕筰と並んで重要な作曲家で、特にドイツ・ロマン派の書法に日本古来の音楽を巧みに融合し、北原白秋の荘厳な万葉調の和語と相まり日本の創世記を歌った、正に日本のオラトリオといっても過言ではないその作品に感動し、また文化と歴史が違う日本人がヨーロッパ音楽様式を取り込み、このような作品を書いた事に感動したからです。
古楽科に在学していた僕は主にモンテヴェルディなどのイタリアバロックを専門に研究していましたが、歴史を感じさせる作品に対し、同じような視点で捉える事のできるのが、明治以降の日本の西洋音楽受容の時代だったのです。

当時としては全力を出し切った演奏でしたが、若さゆえの至らなさも感じており、もう一度歌いたいと思っておりました。そんなおりにミッテンヴァルトからリリースしているライブCDを熊本文化協会の大江先生にお渡しした所、なんと大江先生のお父様の詩に、信時潔さんが作曲なさってるという事をお聞きし、これは熊本で演奏しましょうと約束したのが8年前。しかしオーケストラで、しかも合唱がかなりの割合を占める大曲。しかも声楽を勉強したものならば、歌曲集《沙羅》の作曲家で、受験で必ず歌うコールユーブンゲンの編纂者である信時潔を知ってはいても、一般的には知られていないため、なかなか実現は困難でした。しかもこの曲が皇紀2600年の記念祝祭の為に作曲された経緯、軍国主義として利用された《海ゆかば》の存在が重くのし掛かっていたこともあります。
しかし経緯はどうであれ、そういった時代背景を隠す事は、今後の教育にも良くは働かない、そして音楽の作品はとても素晴らしく、誇るべき作品である事。晩年の北原白秋が見えなくなる目と闘いながらも、多くの資料を読み解き、書き上げた力作である事。そして題材となった古事記や日本書紀は元々日本古来から伝わる神話であり、ヨーロッパではギリシャ神話の様なもの。そこは戦争とは関係のない、日本人が残した貴重な歴史である事。それらを今回の指針としたいと思いました。事実僕の生まれ故郷の熊本や、宮崎の高千穂など、多くの神話は小さい頃に聞いていた事もありましたし。

そんな想いを抱きつつ、それを実現できるタイミングが正に今年だったのです。
演奏するなら最高の物を作りたい。これは両親が常々言っており、これに賛同してくれたのが山田和樹氏でした。そしてオーケストラはその主兵・横浜シンフォニエッタ。このオーケストラには僕の芸大時代の同期生も数多く乗っており、今回もゼネラルマネジャーの碓井君を含め4人も同期生がいました。

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その演奏は素晴らしく、前プロである信時潔の絃楽四部合奏と、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は見事で、会場もブラボーが沢山飛んでました。

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ここに「運命」を持ってきた事が心憎いです。名曲であり、一般的には知られていない海道東征に対し、一つの広告となってくれるばかりでなく、その数奇な運命を辿った信時潔との関連も感じさせてくれます。

また今回はやはりあまり演奏の機会が少ないピアノ独奏曲『木の葉集』や、北原白秋が海道東征が認められ福岡日日新聞社の文化賞が贈られる際、久々に故郷柳川を始め九州各地を巡って作詞した「帰去来」なども演奏。この詩がまた胸にぐっときます。

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そしてメインである《海道東征》。ソリストには熊本出身で日本でもトップで活躍しているメンバーが集ってくれました。グルッポ・ヴィーヴォとは両親や僕の発声の先生であった疋田生次郎先生を冠した名前であり、三縄みどり先生や、今や人気絶頂の大澤一彰さんもその弟子。アルトの兼武尚美は父の弟子で、疋田先生の孫弟子にあたります。また僕がカヴァッリのオペラ《カリスト》で共演した時に熊本出身と発覚し、まだ熊本では演奏活動を出来ていないと言っていた素晴らしい逸材、澤村翔子ちゃんも地元に紹介できました。

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特に三縄みどり先生は、僕を子供の頃から知っており、歌を志し芸大に入学した際、学内の5-109前を意気揚々と歩いていた時、後ろから
「やっと君!」と昔のあだ名で呼ばれ、
なぜこのあだ名を知っている?
と思って振り向くと三縄先生でした。そんな小さい頃から僕の事を可愛がって下さった先生と今回ご一緒に熊本の地で歌えた事は、僕の一生の宝となりました。

そして合唱団は、この海道東征を山田和樹氏の指揮で歌いたいと思った県内15団体と一般公募からの合同合唱団。170人を越す人びとが集まってくれました。その中には、母が僕の小学校のPTAをしていた時に結成したママさんコーラスのメンバーや、小学校時代の同級生なども参加していました。

そしてこの企画には多くの協力者がいて実現できました。まだ一般的に手に入れる事が出来なかった楽譜を、信時潔さんのお孫さんである信時裕子さんが、これを機会にアカデミア・ミュージックさんと協力し、ヴォーカルスコアを出版。フルスコアやオケのパート譜なども貸し出しできるシステムを作って下さいました。
また実際に70年前に海道東征を歌われた、信時潔さんのお弟子さんでもある、高名な作曲家、大中恩先生も応援して頂き、当日はご高齢にも関わらず、熊本まで聴きにきて下さり、熱いお言葉をかけて下さいました。

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この他にも多くの方が見えるところ、見えないところで協力して下さり、この演奏会が実現できました。本当に感謝です。

そしてやはりこの地方の小さな団体の呼びかけに応じて下さった山田和樹氏の協力は一番大きいです。感謝を表すため、ライトアップされた熊本城をバックに、くまモンが贈呈されました。

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僕は学生時代から大なり小なりコンサート活動をしており、デビューというものが何で、いつかというのがはっきりしないのですが、おおよそ2002年頃から外での活動が増え、特に海道東征を歌った2003年は大きく飛躍した年だったと記憶してます。そこから気付いたら10年を超えてるんですね。ここでその頃歌ったこの海道東征を歌うという事は、ここまで成長したなぁという実感と、ここまで頑張って歌ってきたなぁという想いを感じさせてくれました。
ニッポニカ公演を聴いて下さった方には、「変わってないねぇ」と声をかけて下さいました。その頃の熱い音楽への想いを未だ失っていないと受け取らせてもらいましたし、「声が立派になったねぇ」と声をかけて下さった方には、10年精進してきたのを感じ取って下さったと感謝しました。

来年は信時潔の没後50周年になります。今回の海道東征公演には、熊本だけでなく、日本各地からわざわざ足を運んで下さった方が数多くいらっしゃいます。その方々が、それぞれの地に戻られ、信時潔を再認識して、今回が一つのムーブメントの起爆剤となれたら嬉しいなと思います。

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※追記2014.2.14
因みに私たちは決して政治的や思想的な意味合いを持ってこの曲を演奏したのではありません。純粋な信時潔の音楽作品への敬愛と、北原白秋の晩年の大作が、思想的な偏見でお蔵入りになっている事を残念だと思ったからです。事実信時は作曲依頼を1度断った経緯もありますし、信時はキリスト教会音楽で育ちました。
結果的に戦争を後押しする事になった心ない批判の為に日本を去った、熊本にも所縁のある画家・藤田嗣治と似た境遇にあり、現在再評価を得ている藤田と信時は重なる部分が多いと思います。

どこの国にも戦争に翻弄された人物はいます。例えばワーグナーのように。
でもそれは当時の抗うことのできない状況であって、後の時代に生きる私たちは、その歴史に目を逸らさず、そこから平和への道筋を学ぶべきだと思います。
それぞれの国が自国を誇りに思いつつ、他国を尊重し、お互い敬愛できるように。2度と戦争がおきないように。

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バリトン歌手
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